資金繰りが厳しくなった場合の具体的な対策~税理士が解説~

財務記事

 事業を運営する上で、資金繰りの悪化は避けて通れない課題です。特に緊急時には、迅速かつ的確な対応が求められます。以下では、資金繰りを改善するための具体的な方法を段階的に解説します。


1. 支払いの優先順位を明確にする

 資金繰りが厳しい場合、すべての支払いを同時に行うことは難しいため、支払いの優先順位をつけることが重要です。

支払いの優先順位例

  1. 支払手形の期日支払い
    • 不渡りを防ぐため最優先で対応します。不渡りが2回発生すると銀行取引停止となり、事実上の倒産に繋がります。
    • 必要に応じて「手形のジャンプ」(支払期日の延長)を取引先に依頼します。依頼時には、資金繰り表を提示し、次回の支払い計画を具体的に説明することで、取引先から信頼を得て支払い延期が認められたといった事例があります。
  2. 従業員の給料
    • 給料の未払いは士気の低下や労働基準法違反に繋がります。雇用調整助成金などの制度も活用しましょう。
  3. 仕入代金(買掛金)
    • 取引先との信頼関係を維持するため、支払い猶予をお願いする場合でも誠意を持って対応します。具体的には、主要な仕入先に支払い猶予を依頼し、代わりに将来的な取引量の増加を約束することで、仕入先との信頼関係を維持しながら資金繰りを改善した事例があります。
  4. 家賃・水道光熱費・保険料
    • 家賃は貸主に支払猶予を依頼し、公共料金や保険料は特別措置を確認します。
  5. 税金・社会保険料
    • 納付猶予制度を活用し、延滞税や担保不要で支払いを延期できます。
  6. 借入金の利息や元本返済
    • 金融機関と交渉し、返済条件の変更や猶予を依頼します。

2. 現金化できる資産を確認する

当面の必要資金を確保するため、手元の資産を現金化する方法を検討します。

現金化の具体例

  • 定期預金や積立金の取り崩し
    最も迅速に現金化できる手段です。
  • 経営者の個人資金の貸し出し
    家族の理解を得た上で、会社に一時的に貸し出します。
  • 共済や保険の貸付制度の利用
    小規模企業共済や生命保険の契約者貸付を活用します。
  • クレジットカードのローン利用
    金利は高めですが、緊急時の資金調達手段として検討します。

3. 公的支援策を活用する

資金繰りを改善するために、国や自治体が提供する支援策を積極的に利用しましょう。

融資・信用保証制度

  • セーフティネット保証
    • 売上減少が要件となるが、信用保証協会が保証を提供。
  • 危機関連保証
    • ほぼ全業種を対象に100%保証。

助成金・補助金

  • 雇用調整助成金
    • 従業員の休業手当を一部助成。
  • 持続化補助金
    • 販路開拓や生産性向上のための費用を補助。
  • IT導入補助金
    • 業務効率化のためのITツール導入を支援。

4. 資金繰り表を作成する

資金繰り表を作成し、現状を「見える化」することで、適切な意思決定が可能になります。

資金繰り表の作成ポイント

  • 収入と支出を時系列で整理
    1週間単位や月単位で、入金予定と支出予定を記載します。
  • 不足額を明確化
    必要な資金を把握し、調達計画を立てます。
  • シミュレーションを行う
    売上減少や支払い猶予を考慮した複数のシナリオを作成します。

5. 取引先や金融機関とのコミュニケーション

資金繰りが厳しい状況では、取引先や金融機関との信頼関係が重要です。

コミュニケーションのポイント

  • 早めに相談する
    支払いが遅れる場合は、事前に連絡し誠意を示します。
  • 具体的な計画を提示する
    資金繰り表や返済計画を用意し、現状を説明します。
  • 柔軟な交渉を行う
    支払い猶予や条件変更を依頼する際は、相手の立場も考慮します。

6. クラウドファンディングを利用する

事業継続が難しい場合でも、次のステップを見据えた行動が必要です。

  • クラウドファンディングの利用
     新たな事業を視野に、クラウドファンディングを活用し、過去の経験を活かし事業を軌道に乗せましょう。

まとめ

 資金繰りの悪化は、どの事業者にも起こり得る問題です。しかし、適切な優先順位付けや公的支援の活用、資金繰り表の作成などを通じて、乗り越えることが可能です。最も重要なのは、早めの対応と周囲への相談です。どんな状況でも、必ず改善の道はあります。

「資金繰りの改善は、事業継続の第一歩です。焦らず、計画的に対応しましょう。」